月読宮前で40年 店主夫婦とお客さんが共に歩んだ物語

2021/03/23

つきよみ食堂

     楠木 康生さん・静香さん

 

店舗情報・・・・・・・・・・・・・・・・・

伊勢市中村町831

11:00~15:00

月曜・火曜定休

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皇大神宮(内宮)別宮・月読宮の向かいにある手打ち伊勢うどん・かつ丼の店「つきよみ食堂」。

観光客だけでなく、地元の老若男女からも長年に渡って愛されている老舗です。

今回は、この食堂を営む楠木さんご夫婦を取材しました。

 

 

叔父に誘われ

電気の仕事から、うどん屋へ

 

店主の康生さんは、地元の伊勢工業高校を卒業後、電気関係の会社で働いていました。

元々父が電気の仕事をしていた関係で、家に電子機器や本が沢山あり、幼い頃から電気の仕事に馴染みがあったそうです。

 

 

25歳の時、叔父から「月読宮前のテナントで、喫茶とうどん屋を始めようと思うんやけど、

うどん屋の方をするか?」と声をかけられ、"やってみようかな"と思ったそう。

初めは従業員として、うどん屋を任されることに。

店名「つきよみ食堂」の由来も、"月読宮の前にあるから"というシンプルな理由でつけました。

 

 

 

オープンから1年後、康生さんはうどん屋を独立させ、自分でお店を営み始めます。

「それからずっとここでお店をしてます。今65歳だから、もう40年以上やってることになるなぁ。」と、オープン当初のことを懐かしんでいました。

 

 

必死で働いた20~40代

朝から晩まで、休みなしで営業

 

 

康生さんは、伊勢市で生まれ育ち、

幼い頃、近所にはうどん屋が沢山並んでいたといいます。

そんな環境で育ったので、伊勢うどんには慣れ親しんでいたそうですが、まさか自分が将来うどん屋をするとは思っていませんでした。

 

 

 

伊勢うどんのタレの作り方は、市内の「美杉食堂」というお店で学びました。

当初は"蕎麦・うどん"のお店としてオープンしましたが、観光客だけでなく、地元の人達にも普段の食事で利用してもらいたいとかつ丼を始め、昔はから揚げやハンバーグも提供しました。

 

 

 

奥さんの静香さんとは、お店にアルバイトに来ていた縁で出逢い、結婚。

3人の子どもとお互いの母親を養うため、朝から晩まで休日もほぼなしで働きました。

当時は出前の対応もしており、お店が開けられないほど忙しかったといいます。

 

 

康生さん「忙しかったけど、女房と2人でなんとかやってました。

『頑張って30年はお店続けような』って話した覚えがあるなあ。

まだ若かったし、家族みんな食ってかないかんで必死やったね」

 

静香さん「出前で丼ぶりが全部出てしまって、急いで回収に走ったこともあったなあ。

必死やったけど、あの頃は何にもしんどいと思わんかった。

主人が『ゴルフバッグが欲しい』って言うから、お店終わってから2人で内職したり(笑)何でも頑張れたなあ。」

 

 

子どもの頃に食べた

"伊勢うどん"を追い求めて 

 

お店を始めて10年が経った頃、康生さんは伊勢うどんのタレを幼い頃に食べた昔懐かしい少し甘口のたまり醤油味近づけたいと改良していきます。

その後、平成20年には伊勢うどんの麺の手打ちも始めました。

 

「それまでは、製麺屋さんの茹で麺を仕入れてたんやけど、 やっぱり手打ちの茹でたて麺の方が、コシがあって断然美味しいことに気づいたんさ。

一度その違いが分かってしまうと"もう手打ちの麺しか食べたくない"と思って、自分で打つことにしました。」

 

 

楠木さんの麺の手打ちは、朝の4時半頃から始まります。

まずは、三重県産の小麦粉「あやひかり」に塩水を加えて全体に混ぜ合わせます。

30分~1時間ほど生地を寝かせて柔らかくした後、力を込めてしっかりこねます。

こねればこねるほど、コシとなるグルテンが形成されていきます。

その後、足で踏み作業をして、生地を麺棒で延ばし折り畳んで切ります。

 

 

 ↑ 手打ちした伊勢うどんの麺。(1箱・約20人前)

 

 

麺の手打ち作業と同時に、昨日の朝に打った麺を茹で始めます。

伊勢うどんは、さぬきうどんなどに比べて太さが倍になるので、茹で時間は1時間ほどかかります。

茹でた後も30分ほど置き、水分を浸透させる工程が必要とのこと。

この丁寧な毎朝の仕込みに、康生さんの"お客さんへ美味しい伊勢うどんを届けたい"という想いが込められています。

 

 

 

伊勢うどんの手打ちを始めてから、

「ふわふわで、ほどよいコシがあって美味しい!」と、益々つきよみ食堂は人気店に。

 ↑ かつ丼と伊勢うどん半盛りのセット 

 

 

その後も、伊勢志摩ならではのメニューを開発!

志摩から仕入れたあおさを粉状にして、塩とともにごはんと混ぜ合わせトンカツを乗せた「潮香都丼(しおかつどん)」や、エビフライを乗せた「潮恵比丼(しおえびどん)」が登場しました。

 

 

 

得意のPC技術を活かして

楽しんだお客さんとの交流

 

工業高校出身で前職も電気関係というだけあって、

当初普及したばかりのパソコンを使いこなしていた康生さん。

製麺の仕方はWEBサイトで学び、HPやお店のメニューも早くから全てパソコンで作っていたといいます。

 

 

"お客様に安心して食べてほしい"と、HPに伊勢うどんの手打ちの様子や食材の仕入先について情報発信。

また、「つきよみ劇場」と題して映画の題名や曲名をダジャレにした作品を発表したり、

掲示板サイト「喫茶室」を作り、ネット上でお客様との交流を楽しんだそうです。

 メニューの1つである「伊勢かつ丼」は、このようなお客様との会話から生まれたもの。

 

「お客さんから『福井には"ソースかつ丼"っていうのがあるやろ?あれを伊勢うどんのタレで作ってみたらどう?』

ってアイディアをもらったんさ。それで始めたのが"伊勢かつ丼"。」

 

 

 ↑ お客さんにアイディアを頂き、開発した「伊勢かつ丼」

 

 

こうした店主の積極的な取組みやユーモアと優しさに溢れた人柄が伝わり、長年お客様に愛され続けているのでしょう。

 

 

どんな時も笑顔で

乗り越えてきたおしどり夫婦

 

康生さんと共に歩んできた奥様の静香さん。

2人は"おしどり夫婦"として、テレビ番組で特集されるほどの仲良しぶり。

お店でも家でも2人はいつも一緒です。

「そんなにずっと一緒にいて、喧嘩はしないんですか?」という問いに

 

 

「喧嘩はほとんどしやんなぁ。長年一緒におるから、女房が何考えとるかとか、こう言ったらこう返ってくるとか、

 もうなんとなくわかるから、喧嘩しても仕方ないというか…(笑) もう自分の一部のような感覚。一緒におるのが当たり前やから、ごみ出しで少し帰りが遅いだけで、ソワソワ心配になったり(笑)」

 

2人で力を合わせ、40年以上どんな時も共に乗り越えてきたからこそ生まれた強い絆、そしていつもお互いを大切に思う気持ちが伝わりました。

 

 

 

これまで、ほとんどお店を長期で休んだことはなく、休んだのは40年間でたった2回だけ。

1回目は、康生さんが40代の時。畑で草刈機を使っていた際に右足の筋肉を切ってしまい、

一時は"二度と歩けない体になって、お店を続けられないかも"と不安になるほどだったそうです。

それでも、毎日外を歩いて懸命にリハビリに励み、1ヶ月足らずで回復!

康生さんの「お店を続けたい!」という強い気持ちと努力に、きっと月読宮の神様が味方してくれたのですね。

2回目は、昨年のコロナ禍による緊急事態宣言時に、止む無くお店を1ヶ月間営業自粛しました。

その2回以外は、ずっと毎日変わらずお客さんをおもてなししてきました。

 

 

 

休日は山の大自然へ

小さな命を愛で、心を豊かに

 

楠木さんご夫妻の趣味は、山登り。

近くの朝熊山や熊野古道など、休日に健康のために登り始めて4年目になるそうです。

これからも元気で過ごすために、休みは山登りを楽しみたいと話す2人。

 

 ↑ 山登りを楽しむ楠木さんご夫妻

 

「仕事をすることも1つの健康法かなと思う。 お店をしとるから、休日に時間を惜しんで「今日しかない」と思って山登りに行くんやと思う。 毎日休みでいつでも山に行ける状況やったら、逆に行かへんかもしれんなあ(笑)」

 

 

康生さんの山歩きの楽しみは、山でしか見られない美しい花々を撮影すること

マクロレンズを取り付けた一眼レフのカメラで、植物たちがそれぞれの場所で、様々な姿で活き活きと咲き誇る様が写されています。その小さな生命にそっと寄り添う、康生さんの優しい心のフィルターを通した美しい写真は、HPなどで発信されています。※詳しくは下記リンク「朝熊ヶ岳の四季」をご覧ください。

 

 ↑ 康生さんが地元の朝熊川林床で撮影した小芹葉黄蓮(コセリバオウレン)

 

 

 

これからもお客様と共に

"つきよみ食堂"の物語は続く

 

この40年、手間暇かけた愛情たっぷりの伊勢うどんとかつ丼でおもてなししてきた"つきよみ食堂"。

「あと何年続けられるかなぁ・・・(笑)」と話す現在65歳の康生さんですが、

今日も変わらずうどんを打ち、奥様は笑顔でお客さんを迎えます。この夫婦が創りだすアットホームな空間に癒され、長年通い続ける顧客は数え切れません。

これからも夫婦仲良く、お客さんと共に楽しみながら歩む"つきよみ食堂"の物語はまだまだ続きます。

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