偉人伝 ~伊勢を想う人々~

古くから日本人を魅了してきた伊勢という町。その繁栄は多くの偉人たちによって支えられてきました。
ここでは、知られざる偉人たちにスポットを当て、この町の魅力を再発見していきます。

妻として母として、画家として輝いた女性
伊藤小坡

2020.08.15

伊藤小坡は、明治・大正・昭和を彩った女流画家。伊勢に生まれ、まだ男性社会だった京都画壇に単身乗り込みます。やがて、女性としての幸せもつかみ、画家としても成功した彼女。自分の信念を貫いた生き方は、現代の私達にも学ぶべきことがあるはずです。

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2020.08.15

猿田彦神社の宮司の娘として生まれ、”意志ある女性”を描き続けた日本画家

伊藤小坡美術館の外観。猿田彦神社の西側の坂道を少し登ったところにある。
12ヶ月を表現した色紙のうち、8月の「秋月」。(伊藤小坡美術館所蔵)
12ヶ月を表現した短冊のうち、9月「雛菊」。(伊藤小坡美術館所蔵)
洋梨。輪郭線が描かれていない。(伊藤小坡美術館所蔵)
果物シリーズ、バナナ。同じく日本画では必ず描く輪郭線がない。(伊藤小坡美術館所蔵)
イチゴ。果物を描いたこれらの色紙は、昭和中期頃の作品と思われる。(伊藤小坡美術館所蔵)
80歳のとき、第1回歴史美術展に招待出品された鶴ケ岡の舞。(伊藤小坡美術館所蔵)
目次にも使用した「烈女形名の妻」。舒明天皇の時代に、蝦夷征伐を命じられるも敗れ、逃亡を企てた夫を鼓舞、自ら夫の刀を持って戦う妻の姿を描いたもの。(伊藤小坡美術館所蔵)
美術館には、映像資料が楽しめ、収蔵の約500冊もの美術図書を閲覧できる学習室もある。

 宇治土公(うじとこ)という珍しい名字を聞けば、伊勢の人間なら猿田彦の宮司さんかな、と思うのではないでしょうか。明治・大正・昭和を駆け抜けた女流画家・伊藤小坡は、旧姓・宇治土公。まさに猿田彦神社の宮司の娘として誕生しました。

 厳格な父親のもと、幼い頃から、和漢の文学に親しみ、盆石や柔術などの稽古事にも励みました。実家が神社ということで、当然、日本の歴史についても多くを学び吸収していたに違いありません。単身故郷を離れて京都で絵の修業しているときも、漢学や国語、美術史などを学んでいます。

 歴史舞台に登場する女性(主役ではない)にスポットを当てたり、文学や能などの芸術に描かれる女性、日常の何気ない生活のなかでの女性など、小坡は、生涯女性を描き続けました。その女性たちは誰もみな、凛とした美しさを備えています。そして、心に秘めた強い意志を感じさせるのです。女性が職業を持つことがまだ当たり前ではなかった時代に、仕事と家庭のどちらも大切にし、柔和で控えめな表情と穏やかな暮らしのなかで強い意志を貫いた小坡。その生涯を紐解きます。

 

妻として母として、画家として輝いた女性
伊藤小坡

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