お伊勢さんエッセイ

「遠くにいてしょっちゅう伊勢には行けないけれど、その様子は常に気になる」というお伊勢さんファンのみなさん。
毎月1日、朔日参りの風景と伊勢神宮をさらに深く知るためのお話をお届けします。

皇學館大学名誉教授・櫻井治男先生による
お伊勢さんエッセイ⑩
年を越す〜伊勢の歳末と新たな祈り

2020.12.01

12月になると、新しい年を迎える準備が、全国各地で始まります。1年の災厄を払い、新しい年の幸いを祈ります。しきたりや風習には地方・地域ごとの特徴があって、"故郷"を感じるものです。今回は、古い資料をたどって、伊勢の歳末の様子をご紹介します。

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2020.12.01

第三波が押し寄せるなか、今年最後の朔日まいり〜師走・朔日まいり

これから明けようとする空の色は絶妙に美しい。今日はお月さまも綺麗で、とても良い一日の始まり。
参道もまだ薄暗く、空気も冷たくて気持ちが引き締まります。
太陽が顔を出しそうな東の山のあたり。
まるで日の出か、と思わせるような西の空。十六夜の月が沈みゆく。
御手洗場へ続く道。残念ながらちょっと紅葉には遅かったよう。もう散ってしまっている木が多い。
五丈殿の前では、すでに来月(来年ってことですね)の準備。多くの参詣客のために、毎年建てられる仮の授与所が。
正宮へ。コロナ平癒を祈らずにはいられません。
帰りの宇治橋では、もうこんなに明るく。
四季桜が満開。もう少し前なら紅葉との共演が見られたなぁと少し悔やまれる。
本日の朔日粥 byとうふや。里芋粥でした。ほっこりと温まります。
朔日餅は、雪餅。今回は食べられてよかった。帰りにはやっぱり売り切れてました!
おかげ横丁周辺は、まあまあの賑わい。行列もあるものの、先月の比ではない。

 本日の日の出は、6時41分。張り切って5時過ぎに駐車場についたので、まだ月が綺麗に輝いていました。11月30日の月は十六夜。県外車も停まっているものの、先月とは比べものにならないくらい静かなおはらい町でした。

 先月1日は日曜日と重なっていたし、GO TOも順調、第三波もまだ忍び寄る程度だったので、すごい賑わいでしたからね。今日は、押し寄せる第三波のために朔日まいりを断念したみなさんを代表して(勝手にそのつもりで……)お参りしてきました。 

 「冬はつとめて」――清少納言も書いたように、冬の朝は、キンとして気持ちがよいものです(ちょっと寒いですが)。黒から群青色に変わりだす空はなかなかの見ものでした。

 いつものように、朔日粥を食べ、先月、お参りを先にしたために食べられなかった朔日餅をデザートとしていただき(ほとんど並びませんでした)、順調に内宮に向かいます。宇治橋についてもまだ陽光はなく、月明かりに照らされて厳かな雰囲気。参道を進んでいく頃には、東の空に太陽の薄明かり、西の空に月の輝きが同時にみえて、素敵でした。

 正宮についても、あたりはまだ暗く、なんだかいつもと雰囲気が違います。なんでだろうと考えていると、いつもは正面にかかっている白い布(御帳・みとばり)が見えてないんです。木の扉(御扉・みとびら)が閉まっています。はて、と思って近くにいたイケメンの衛士さんに訪ねてみました。

 「御扉は明るくなったら神職が開きます」「は? 明るくなったらといいますと…」「時間は決まってないんです。明るくなったらなので、夏は早く、冬は遅いのです」――そうなんですね。人々が太陽とともに生活していた古代のことを思ってしまいました。神宮はそのころからあるのだ、と。

 「では、大晦日も閉まっていますか?」と私。「元旦は午前0時に御扉を開きます。その日は、いつもの御扉だけでなく、その奥の扉も開きます」とのこと。なんと、そんなこと、これまで気をつけて見たことなかったです。いつも押し合いへし合いしながら、やっとのことでお参りしてましたから。お正月は、神様にいつもより少し近づけるってわけですね。来月1日は、気をつけて奥の方まで目を凝らしたいと思います。ちょうど御帳が風で持ち上がるといいなぁ、と思いつつ。

 いくつになっても、まだまだ知らないことはあるものです。来月、無事に新しい年が迎えられますように。(編集部・C)

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